好きな人との結婚はしない そのB

好きな人との結婚はしない そのB

感情の中に真実はない

 

感情というのは「感じ方」の問題です。あなたがどう感じるかという問題です。

 

感じ方というのは、きわめて主観的で、客観的な事実とは無関係ということがよくあります。

 

これこそが感情を頼りにしてはいけない理由の一つです。

 

たとえば、嫌いな人に顔が似ているのでその人のことも好きになれない、なんて人がいます。自分が過去に嫌な思いをさせられた人がいて、その人と似ているというだけで、まったく無関係な人を、どこかでその嫌な人と同じように思ってしまうというわけです。

 

まったくもって、感じ方はあてになりません。

 

「夫は私のことなんてまるで大切に思っていないんです。私とは別れたいと思っているんだと確信しました」こんな相談を持ちかけてきた女性がいます。

 

どうして彼女がそう感じたかというと、友人夫婦と四人で食事に行ったときのちょっとした夫の行動が原因でした。

 

食事をし終えてレストランから出ようとしたとき、シトシトと雨が降り出していました。「ああ、雨だ……。天気予報確認してなかったな……」友人の夫がそう言ったときです。なんと、自分の夫がすかさず折りたたみ式の傘をバッグから取り出したというのです。

 

「あれ? 雨になるって知ってたの?」

 

彼女がそう言うと、夫は無言でササッと友人夫婦に近づき、二人に傘を渡しました。

 

彼らは遠慮して「いやいや、私たちぱ大丈夫です。二人で使ってくださいよ。奥さんの体を大切にしてくださいよ……。大事な時期なんだから……」

 

そう言ったのですね。じつは彼女は妊娠していることがわかったばかりでした。

 

すると夫は彼女のほうを振り向くこともせず「いやいや、あいつはこんな雨くらいへっちゃらですから、どうぞどうぞ」と強引に傘を二人に渡しました。

 

彼女は言います。「私はこのとき確信したんです。ああ、やっぱりうちの旦那は、私か流産することを願ってるんだなって。子どもが生まれちゃうと、簡単に別れられないじゃないですか……」

 

「え? ちょっと待ってください。傘を友人夫婦に使ってもらったことが、あなたに流産させるための企みだったとお考えなのですか?」

 

「私にはわかります。あのときのうちの旦那の態度で、ビビツと感じたんです」

 

「どんな態度で?」

 

「彼は私の前をわざわざ素通りして、友人の奥さんに傘を差してあげたんですよ。そのとき、私はのけぞりそうになったんです。でも、彼はそれを知ってるのに。無視したんですよ。それに、そのときの、あのなんとも言えない表情……。あのときのすべてが、私をおとしいれる雰囲気でした」

 

じつに面白いですよね。すごい想像力です。

 

彼女は確信してしまったのです。そのときの夫のすばやい行動、自分がのけぞりそうになったこと、彼が振り向きもしなかったこと、そして彼の発言……。これらすべてによって彼女は「感じた」わけです、夫の「陰謀」を。

 

彼女のご主人とも話したのですが、彼は私の前で懇願するように何度も言いました。

 

「あの状況で、自分たちだけが傘に入って歩くなんてできませんよ。友人たちに譲ってあげることのほうが、よほど思いやりのある行為だと思います。それに、私には、誓って言いますけど、何の企みもありません。それなのに『ビビツ』ときだとか『確信した』とか……。正直いって、どうしていいかわかりません……]

 

彼女には育った環境による影響もあって、被害者意識を持ちやすい傾向かありました。日頃から、自分がないがしろにされているのではないかと感じやすいのです。そういう傾向がありますから、事実とは無関係に「ビビツ」と感じてしまったというわけです。

 

想像だけで感情は影響を受ける

 

彼女のケースでもわかるように、人は想像によってもいろいろな感情を抱きます。

 

たとえば、あなたが大好きな彼と死に別れる場面を、とても具体的に鮮明に想像すれば、それだけで悲しくなって涙が出ることでしょう。想像しただけでも、いま起こっているかのような気持ちがわいてくることがありえるわけです。

 

そして、感情は「生理反応」を引き起こします。胸が苦しくなったり、于に汗をかいたり…。

 

本当は何も起こっていないのに、想像するだけでも、それは心のなかではまるで起こっていることであるかのような感情がわいてきて、その感情は、心臓の鼓動が高鳴るとか、胸が苦しくなるなどの生理反応を起こさせるのです。

 

人間の想像力というのはすごいものです。

 

ハラハラする夢を見ていて、パッと目覓めたら、手に汗を握っていたなんていうことはありませんか? 夢は夢であって、事実とは無関係ですよね。でも夢の世界で起きていることに従って、現実の世界で生理反応が起こるのです。

 

つまり、目の前に何も起こっていなくても、想像するだけで、それがリアルであればあるほど、あなたの感情は影響を受けるのです。

 

ですから、感情と事実とはまったく無関係ということかありうるということです。

 

これほど不確かなものはありません。

 

事実無根の怒りをぶつける女性

 

離婚経験のある三〇代半ばの女性と、結婚したい相手のことで話したときのことです。

 

彼女には四歳の娘がいます。お見合いパーティーで知り合ったという四○歳の彼と付き合っていて、結婚したいと思っています。

 

じつは彼は、別れた元夫に雰囲気がよく似ていて、好みのタイプなのだというのです。

 

それが理由で、自分から積極的にアプローチして付き合うことになりました。子どもがいるのに自分でいいと言ってくれたこと、また、子どもも彼をまるで父親のように慕っていることが、結婚への決め手となりました。

 

ところが、ある日のこと、彼が家に食事にきて「さあ、そろそろ帰ろうか」と、子どもを抱き上げたときのことでした。

 

「はっ」とした彼女は、思わず子どもを強引に彼の手から引き離してしまったのです。

 

驚いたのは彼です。「なんか悪いことしたかな?」と小声でささやきます。しかし絵里は無言のまま、不機嫌になって彼を押し帰してしまいました。

 

それ以来、彼女は彼が子どもに近づくたびに気分が悪くなり、イライラして、彼に怒りをぶつけてしまうのです。

 

なぜこんなことになってしまったかというと、じつは、子どもを抱き上げたときの彼の姿が、最後に出ていったときの元夫の面影とあまりにもかぶってしまったからだというのです。

 

「彼は、元夫に似ていて、それが付き合うきっかけだったんですが、それが逆に私を苦しめることになるなんて思ってもみませんでした。」

 

元夫と離婚したのは、夫が女性をつくって出ていってしまったからです。

 

この夜、彼が子どもを抱き上げたときの場面が、元夫と離婚することになって、最後に夫が出ていったときの姿とあまりにも似ていました。その場面とかぶってしまったことで、彼女のなかには、その日に抱いていた怒りと悲しみの感情がドッとわいて出てきてしまったのでした。

 

その日から、彼女はちょくちょく彼にイラつきや怒りをぶつけてしまうようになったのです。とくに、子どもと接しているときの彼を見ると、いたたまれなくなります。しまいには、その怒りは子どもに向くようになってしまいました。

 

本当は彼にもっとなついて本当の父親のように思ってくれれば、結婚後もスムーズだと期待しています。しかしその反面、なつけばなつくほど、イライラして、子どもと二人だけで過ごしているとき、彼の悪口を言ってしまうのです。

 

ときにはこんなことを言ったこともあります。「彼は、あなたのパパじゃないの。わかってる?」これでは子どもは混乱してしまいます。

 

自分には何のいわれもない父親の浮気のせいで、母親のイラつきをぶつけられてしまう子どもは本当にかわいそうです。また、自分の子どもではない子どもを一生懸命かわいがっている彼にしてみても、その努力が報われないのですから、これほど不毛なことはありません。

 

ここに感情の働きの一つの特徴があります。

 

感情というのは、目の前にある事実とは無関係に、過去のなんらかの原因によってわいてくることがありうるのです。

 

「私、どうかしてたんですよね。元夫に似ている人と付き合って結婚したいと思うなんて……。バカだと思います……。彼は本当にすばらしい人です……。でも、私には無理なんです……。でも……」

 

でも……、本当は彼と結婚したかったのです。

 

彼女はカウンセリングを受けることにしました。彼女はあやうく最高の再婚相手を失っていた可能性もありました。

 

彼女は継続的にカウンセリングに通って、今では無事に再婚しています。

 

感情に支配されてしまうと、その気持ちを、まったくお門違いの人にぶつけてしまいます。これほど理屈に合わないことはありません。

 

けれども、感情の奴隷になった人は決まってこういうことをしてしまうものです。

 

「好き!」とか「一緒にいたい!」という強い気持ちに支配されると、これと同じように、理屈に合わないことをしてしまうのです。

 

 

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